音響デザイナー・矢野桂一が語る、華麗なるアイスショーの舞台裏(後編)

「音響デザイナー・矢野桂一が紡ぐ『フィギュアスケート音楽』の世界」後編です。
結弦くんの関係する部分を抜粋します。

ソースはこちら  https://victorysportsnews.com/articles/4508/original


本格的なスケートシーズン前のオフの期間に、全国のアイスリンクでは様々なショーが行われる。お客さまを楽しませる華麗な演技とともに、来季に向けて新プログラムのお披露目も行われる。音響の専門家である矢野さんにとっても、編集プログラマーとしての矢野さんにとっても、実は忙しい季節だ。第二回は、そんなアイスショーでのエピソードと、フィギュアスケートへの想いを語ってもらった。


生演奏が生むサプライズ

アイスショーの醍醐味のひとつに、生演奏がある。クラシックからポップス、ジャズ、ロックと、様々なジャンルのアーティストが、氷上のスケーターたちとコラボする。普段のコンサートと違うのは、彼らにとって“ありえないところ”で歓声や悲鳴、拍手が起こることだ。そのあたりは前もって了解済みらしく、矢野さんたち音響サイドも、ジャンプやスピンに合わせて音量を調整する。

一般にクラシック界は保守的で、奏者もあまり原曲をいじりたがらない。classical music(古典)と呼ばれる所以だが、そんな中にも熱狂的なフィギュアファンの音楽家もいる。例えば、福間洸太朗氏。パリ国立高等音楽院やベルリン芸術大学で学び、20歳でアメリカ・クリーヴランド国際ピアノコンクールで優勝という国際的ピアニストだ。

「福間さん、フィギュアスケートがすごく好きで、実は僕がやっている仕事にも興味があるとおっしゃってるんです。選手に曲をいろいろ紹介したいらしいです」

クラシックの演奏家がフィギュアの曲を聞いて仰天するという話はよく聞く。逆にプログラム曲を集めたコンサートでは、正規の長さに驚くスケートファンも多い。例えば、羽生選手の3分弱の『バラード第一番』が9分間たっぷりあったりするわけだ。

「福間さんは、頭の中で演技と曲がシンクロしていて、ぴったり合わせられるんですよ」

 去年になるが、福間さんが羽生選手の「映像」に合わせてピアノを弾くという演出があった。演奏するのはショパンの『バラード第一番』で、ピアノの前には楽譜ではなくモニターが置かれていた。福間さんは、画面に映る羽生選手の動きをタクトに、プログラム用に編集されたバラード第一番を完璧に弾いて見せたのである。しかも、音源に使用しているクリスティアン・ツィメルマンのテンポにしつつ、独自のニュアンスと感情を込めながら。

実は、福間さんがリンクで『バラード第一番』を弾いたのは、この時がはじめてではない。以前ショーの途中で氷上にトラブルが発生し、整氷タイムが設けられたことがあった。その時、間をもたせるために演奏したことがあった。本人の粋な計らいだった。それを聴いていた羽生選手のリクエストで、最終日のアンコールにも『バラード第一番』が付け加えられた。結局、2回演奏したわけだ。

「羽生君、結構突拍子もないことを言ってくるんですよ。みんなプロだからやろうと思えばできるんですけど。まぁノリですよね」


ギタリストのプライド

「先日の新潟公演は見られましたか?また羽生くんが、『矢野さん、パリ散の音源ありますか?』って聞いてきたんです」

矢野さんは、すでに羽生選手のとんでもない思いつきに免疫が出来ている節がある。目を細めながら話してくれた。『パリの散歩道』はロックギタリスト、ゲイリー・ムーアの代表作だ。スケートファンは愛情を込めて『パリ散』と呼んでいる。ソチ五輪でも演じた人気のプログラムである。

『今回、生のギターの方がいますよね。杏里さんのバンドメンバーのギタリストの方』

なんとなく羽生選手の考えていることが分かった。それでいろいろ話をすると、やはり“ギターを生で出してほしい”ということだった。アイスショーの最終日に、パリ散で共演したいと言うのである。そればかりはミュージシャン側に相談する必要がある。事務所にも言わなければならない。何よりショーの主催者を通して話さないとまずい。

「全員がオーケーならば、ぼくも手伝ってあげると、主催者側から羽生くんに伝えてもらったんです。すると、ギタリストの今野竹雄さんも、『光栄です』と言ってきたと聞きました。ただし練習させてほしいと。急遽、前日にリハーサルをしました。羽生くんもいっしょに」

明けて当日のリハーサル。まだ、出だしを含めた詳細は決まっていなかった。

「その朝、目覚めてふと思ったんです。せっかくギタリストをフィーチャーするのだったら、演奏者もオマケみたいな扱いではなく、ちゃんと見せてあげなければと」

すぐに制作と話をした。シナリオはこうだ。羽生選手が一旦リンクから下がって、中で汗を拭いたりしてる時に、突然ギターがソロでパリ散のフレーズを弾きはじめる。お客さんから歓声。煽るようにメロディーを一回し弾く。大いに盛り上がったところで羽生登場。そのまま続けて、後半の『フーチークーチーマン』の音源に繋げていく。ギターはそのまま音源にあわせて弾く。

そのサプライズは大成功だった。“バラ1”の衣装のままというのも、なんだか新鮮だった。フーチークーチーマンはセッションでよくやる曲なので、ギターの今野さんもすぐに出来たのかもしれませんね。そう振ると、矢野さんは笑いながらこう返してきた。

「でも、きっと一晩中練習したんじゃないかな。前日のリハーサルと気合が全然違いましたよ」



パリ散のギターとのコラボは、結弦くんの発案だったんですね。それも急遽の思い付き(笑)
真壁さんもびっくりしたろうな。結弦くんの無茶振りに応えてくれた今野さんに感謝です。

I'm so proud of you yuzu!!

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今野さんも、とても嬉しかったんだと思います。
I'm so proud of you yuzu!!」という言葉に、今野さんの気持ちがあらわれてますよね。
ああ、ますます新潟公演楽日の結弦くんの演技が見たくなった。でも、頑として放送しないフジテレビ。昨日の、BSフジの「フィギュアスケートTV!」で、リクエストアワーのアンコール放送してましたが、新潟公演を放送してほしいというリクエストには、絶対応えようとしてくれないのね・・・。


矢野さんは、今、自分の後継者を捜しているそうです。「後継者捜し」のくだりは省略します。そちらに興味のある方は、ソースの記事まで飛んでください。

無良さんが、音響に興味があって、よくブースに遊びに来るので、冗談で「継いでよ」と勧めているそうです(笑) でも、無良さんは、引退後はコーチになりそうですよね。
矢野さんは、結弦くんのことも「フィギュアスケートLife」のインタビューで、「羽生くんほど緻密な選手は珍しい。将来、音楽の編集をしたりすることはないでしょうけど、でも、やったらできるんじゃないか」っておっしゃってましたけど、さすがに、結弦くんに「継いでよ」とは言えない・・・よな(笑) でも、将来、結弦くんが、自分のプロか他のスケーターのプロかで、振付をするようなことがあったら、音楽の編集も自分でしそう。で、細かいところまでこだわり倒して毎日睡眠不足(笑)


長年フィギュアスケートの世界に携わってきた矢野さんが、これからの選手やコーチ、関係者全員へ伝えたいメッセージがあるそうです。

「近年は音楽にこだわりを持つ選手も増えてきましたが、まだ多くの場合はプログラム音楽を決める際に、コーチや親、振付師からの、いわゆる“与えられた曲”を使用するケースが多いと思います。少なくとも1年間その音楽で演技するわけなので、そこはやはり“自分がこの曲を表現したい”という気持ちで選曲にも拘ってほしいと思います。

フィギュアスケートに欠かせないものは、1にスケート靴、2に音楽プログラム、3に衣装だと、僕は思っています。たくさん聞き込んで、自分の物にして、そして演技に臨んでほしいのです。音楽の多くは既存のものですが、作者の意図に左右されないまでも、“自分なりのストーリー”を創り出してほしいと思うのです。

ただし、原曲は大事にしてください。振付けによる多少の効果音を足すくらいなら構わないと思いますが、原曲がなんだか分からなくなる様な編曲は、極力避けてほしい。これは、やはり作曲者の作った想いを大事にして欲しいと言う観点からです。最後に、何よりもこのフィギュアスケートが好きで始めたという初心を大切にして欲しいと思うのです」



スケート靴へのこだわり、プログラムと音楽へのこだわり、衣装へのこだわり・・・結弦くんは、矢野さんのメッセージの完璧な実践者ですね(笑)


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2017/07/09 13:10 | テレビ番組・コラム(2017-2018)COMMENT(8)TRACKBACK(0)  TOP

音響デザイナー・矢野桂一が紡ぐ『フィギュアスケート音楽』の世界(前編)

サウンドデザイナーの矢野さんについての興味深い記事が掲載されました。
前後編と分かれています。まず前編から。

「SEIMEI」と「Hope & Legacy」の誕生秘話についての部分だけ抜粋します。
全文はこちら → https://victorysportsnews.com/articles/4441/original


日本のフィギュアスケート界に、矢野桂一という人物がいる。競技会、アイスショー共に、会場での全ての音に関わる仕事をしている。それだけではない。羽生結弦や宇野昌磨といったトップスケーターのプログラム音源の編集や、場合によっては一曲をゼロからまとめ上げることもある。選手たちの最も側にいて、「音」を通して演技を支える、その仕事や哲学に密着する。


7曲を組み合わせた、羽生結弦の『SEIMEI』

 矢野さんが、映画『陰陽師』のサウンドトラックを用いた羽生選手のプログラム『SEIMEI』を編集したことは、スケートファンの間ではよく知られている。羽生選手には提案のデモ音源を以前から送っていたという。

 本人からは、「陰陽師のメインテーマと龍笛の曲は絶対に使いたい。後はお任せ」というシンプルなリクエストが届いていた。そこで、2枚のアルバムからスケートに合いそうな曲を選んで、ひとつの形にした。羽生選手のスケーティングを“想像”しながら、特徴的な7曲を組み合わせたのである。

「彼の場合、音楽に凄くこだわりがあるんです。『取りあえずこれを基本に持って行きます』と言って、ここから先は本拠地カナダで振付師との本格的なプログラム作りに入っていきます」

 その後もメールでのやり取りは続いた。「ここはあと5秒欲しい」とか、「最後は気がつかないくらいにテンポを上げて、時間内に収めたい」とか。練習が進むにつれ、「ラストに太鼓が欲しい」「ここに“間”を入れたい」など、最終的には33バージョンの『SEIMEI』が作られた。矢野さんは当時を回想して笑う。

「どんどん注文が増えるんです。でも、僕もプロとして出来ないとは言えないんですよ」

 プログラムの中盤に、ファンの間で話題になった箇所があった。別々のアルバムに収められた2曲を重ね合わせて1曲に編集した部分である。振付師シェイ=リーン・ボーンによる提案だったという。同じメロディを奏でるピアノと龍笛は、ピッチもテンポもまったく違っていて、実際には簡単に重ねられるものではなかった。矢野さんは大変苦労して、あの美しいパートを作り上げている。



以前、「羽生結弦選手 SP&FS編曲予想動画 & 雑考」という記事の中で、矢野さんとSEIMEIについて触れたことがあります。 その部分を抜粋します。

「フィギュアスケート Life vol.4」の中で、サウンドデザイナーの矢野桂一さんが、こんなことを言っています。「SEIMEI」誕生秘話です。

振付師のシェイリーン・ボーンのご主人も音楽編集をする人なのですが、今回は和の曲なので、「海外の人ではなく矢野さんにお願いしたい」と、彼自身からメールが来たんです。
羽生くんは音楽にとてもこだわりが強い選手で、この時も「陰陽師Ⅱのテーマと笛の部分は絶対に使ってほしい」ということは決まっていました。でも構成も何もわからないので、最初にジャンプをいくつか跳んで、スピンがあって、ステップがあって・・・と、彼の演技を思い浮かべて想定しながら作っていきました。

しかし、それでは終わらなかった。カナダの結弦くんから、「ここに太鼓の音を重ねてほしい」「この部分と部分のつなぎに少し間がほしい」「ここでイナバウアーをするので、シンバルか何かの音を入れてください」と、次から次へと修正依頼のメールがやってくる。結局、曲が固まるまでの1ヶ月間で、矢野さんは32バージョンの「SEIMEI」を作ったそうです。

「羽生くんほど緻密な選手は珍しい。将来、音楽の編集をしたりすることはないでしょうけど、でも、やったらできるんじゃないか」という矢野さん。自分でも編集やりはじめたら煮詰まって、徹夜になっちゃったそうですから(結弦くん、ちゃんと寝ないとダメ! 城田さんにも言われてるでしょ!)、本当にとことん凝り性ですよね。引退して、ショーで自作のプログラムを滑るなんてことがあったら、曲の編集も喜々としてやりそう、確かに(笑)

矢野さんも、注文の多い結弦くん相手に大変だったと思いますが(笑)、それが世界最高点に結びついたのだから、サウンドデザイナー冥利に尽きるのではないでしょうか。
この「Hope&Legacy」も、和の曲なので、矢野さんが編集担当してる可能性が高いと思います。今度は、何通のメールのやりとりで出来上がったプログラムなのか、知りたいような気がします(笑)



やはり「Hope&Legacy」を手掛けたのは、矢野さんだったのですね。


久石譲氏のご厚意『Hope & Legacy』

 羽生選手が久石譲さんの曲を持ってきた時には、周りが慌てた。久石さんといえば日本を代表する音楽家で、スタジオジブリが制作するアニメーション作品の音楽でも有名だ。

「作るのはいいけど、羽生くん側の関係者に『使用許可だけは取ってくださいね』と言ったんです。編集はそれと平行してスタートさせました」

 矢野さんがそう言ったのには理由があった。以前、小塚選手本人が編集したジブリの曲の使用許可が下りず、敢えてプログラム用に再録音した経緯があったからだ。なので、羽生選手のリクエストには細心の注意が払われた。ところが、羽生選手の関係者から伝えてもらった時点では了承を得られなかった。

 いちばんの問題は、別の2曲を繋げて使用することにあった。作曲した経緯や曲のコンセプトがまるで違うものを合わせるということは、作曲者の意と反することである。どちらか1曲を編集して使用するのであれば目をつぶることもなくはないが、繋げることに関しては、楽曲を大切にする観点からも簡単に許可できるものではないとのことだった。

 これは音楽に携わるものとして納得のいく説明だった。それでも、何とか了解してもらう方向を探した。今度はテレビ関係者の仲立ちのもと、矢野さんとスケート関係者の数人で、久石さんの事務所にあらためて頼みに行った。

「本人はいらっしゃらなかったのですが、プログラム用に私が編集した現物をその場で事務所の方に聞いていただいたんです。それで、フィギュアスケートは営利目的ではなく、純粋にスポーツのひとつであること。その競技のプログラムとして久石さんの曲を使わせていただきたいこと。競技時間や演技にあわせて編集を加える許可をいただきたいこと。それらをあらためてお願いしたんです。羽生選手の中にはすでにイメージがあるようで、何とか許可をいただきたく久石さんのほうにお話ししてくだされば、と」

 その後、久石さんからは許可をいただけることになった。ただし、これは今回限りの特例であり、久石さんのご厚意によるものだ。プログラム曲『Hope & Legacy』は、『View of Silence』という美しいピアノ曲が、エキゾチックな『Asian Dream Song』を挟む形になっている。世界にひとつしかない珠玉のプログラム曲は、羽生結弦の代表的な作品になった。

 まもなく、『Hope & Legacy』に携わった関係者は、東京でのコンサートに招待された。その時、矢野さんははじめて久石さん本人に直接挨拶をしたのだった。(文:いとうやまね)



私たちは、できあがったホプレガを「素敵だな~」とみていただけですが、その陰でいろいろなご苦労があったのですね。楽曲の使用許可を得るために、久石さんの事務所にまで足を運んでくださった矢野さんには感謝、感謝です。そして、許可をくださった久石さんのご厚意に、あの伝説の演技と「世界最高得点」という結果でお返しすることができて、本当によかったと思います。


victory_seimei


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2017/07/09 08:20 | テレビ番組・コラム(2017-2018)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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