フィギュア人気の将来性 ~「応援に関する調査」と為末氏のコラムから思ったこと

河北新報の紙面記事に興味深いコラムがありましたので、書き起こします。

【時評 きょう あした】 スポーツ 観戦環境重視を(20180807 河北新報)

 2020年東京五輪開幕まで2年を切った。「アスリートファースト」は東京五輪でも重要視されている。この言葉を聞くときに二つの意味があると感じる。アスリートのパフォーマンスを第一に考えるのか、アスリートの望みを第一に考えるのかだ。

普段はガラガラ

 現役時代にスポーツ界の友人たちとよく話したことがある。もし自分の競技力以外で、スポーツを変えられるとしたら何を変えたいか。多くの選手は「競技自体を人気にしたい」と答えた。頑張って五輪選手になってみたが、普段の試合の観客席はガラガラだし、街で話題にあがることもない。強いだけではなく、競技自体が人気にならないとヒーローは生まれないし、競技も続かないとよく議論した。

 4年に1回、五輪のたびに注目を浴びるスポーツは華やかに見えるが、五輪の前後数ヶ月以外で注目を浴びることは少ない。私自身、数万人が入ったシドニー五輪の直後に、千人程度の日本選手権に出場してがくぜんとした覚えがある。

 よく言われるのはスター選手が出れば競技の人気になるだろうということだが、これは経験則では成り立たないと感じている。競技自体のファンではなく選手のファンであれば、選手が引退したときに去っていってしまうからだ。もちろん選手のファンから競技のファンになることもあるだろうが、競技の観戦体験に魅力がなければ、いずれその人も離れていってしまう。義務感で人は観戦しない。楽しいものを見に行くだけだ。

ファンいてこそ

 日本のスポーツは他国に比べても教育と強い結び付きがある。部活動などでスポーツを通じた人間育成を行うという点で大きな役割を果たしたが、一方でスポーツ産業を育てることには弊害となった。

 誤解を恐れずに言えば、日本のスポーツはこれまで「問題なく運営する」ということを中心に考えられてきた。選手は競技をしやすかったかもしれないが、観客が楽しむという視点はほとんどなかった。むしろ選手を中心にした競技環境を優先しすぎて、観戦環境が発展せず観客が増えなくなっている。

 例えば試合時間一つを取っても、ヨーロッパではスポーツは観客の娯楽であるという認識が強いから、会社が終わる午後5時よりも前に始まることはほとんどなかった。競技場にはだいたいカフェやバーが併設され、ビールを飲みながら試合を見ていた。対照的に日本の競技場でカフェやバーが併設されていることはまれだし、試合も昼間に行われることが多い。

 試合の演出のために選手が待たされることもよくあったが「観客やファンがいてこそ、わらわれの職業が成り立っている」という意識が選手にも強いため、それに文句が出ることもなかった。興行的に成り立てばスポンサーが付き、選手の待遇も良くなり、競技自体が発展するからだ。

五輪後見据えて

 ヨーロッパで「アスリートファースト」という言葉が出るのは、エンターテイメントとして成熟した結果、観客や放映するメディアが優先され、むしろ選手がないがしろにされる局面が増えたからだ。日本は、反対に競技を優先しすぎて観客が楽しめていない。選手の望みを最優先することがもし「アスリートファースト」であるなら、「観客ファースト」で運営してほしいというのが選手の本音ではないのか。
 
 スポーツにさほど興味のない人は東京五輪で祭りを終えるが、選手たちの日常はそれ以降も続いていく。せっかくのチャンスにスポーツを好きになってもらい、日常の試合を見にきてくれるようになることを望んでいる選手は多いはずだ。

 スポーツに関わる人は皆、東京五輪以降にこんな恵まれた環境があるとは思っていない。少子高齢化で、社会保障費が重くのしかかる日本の財政に、さらにスポーツへの支出を求めるのも限界があるだろう。他の国と同様、競技ごとに自主運営が求められる。今は東京五輪に向けての「ボーナス期間」で、マイナー競技でもサポートはあるが五輪が終わればそれも終わる。そのときにどれだけの人が競技のファンになってくれているか。それが20年以降の各競技の未来を決めていくと考えている。(元陸上選手 為末 大)



頑張って五輪選手になってみたが、普段の試合の観客席はガラガラだし、街で話題にあがることもない。
五輪の前後数ヶ月以外で注目を浴びることは少ない。


不人気競技選手の悲哀というか、切実さがひしひしと伝わってくる言葉です。平昌五輪を振りかえっても、あれだけメダルラッシュで日本中が盛り上がったのに、今でもニュースとしての価値があるのは結弦くんぐらいではないでしょうか。博報堂のアスリートイメージ調査で、大きなスポーツイベントで活躍した選手は、その直後の調査では上位にきますが、数ヶ月後の調査ではもうランク外になります。一過性のお祭り人気ではなく、安定して上位をキープしている選手でないと、スポンサーはつきにくいだろうなと感じます。

為末さんのコラムを読んでいると、今のフィギュアスケート選手は恵まれていますよね。五輪でなくても、ファイナルや全日本、ワールドなど大きな大会ではいつもほぼ満員の会場で演技できます。五輪でもない大会を、地上波のゴールデンタイムに放送してくれる競技なんて、フィギュア以外にはなかなかありません。それほど大きな実績がなくても、他競技に比べるとスポンサーもつきやすい。


さて、こんな調査がありました。調査対象はスケオタではありません。一般の人への調査です。

大和ネクスト銀行調べ ~応援に関する調査2018~ (2018.08.07)
https://www.atpress.ne.jp/news/163071
全回答者(1,000名)

今年応援したいと思うスポーツ選手を聞いたところ、
【フィギュアスケート選手】では、1位「羽生結弦さん」(322件)、2位「高橋大輔さん」(79件)、3位「本田真凜さん」(51件)、4位「宇野昌磨さん」「浅田真央さん」(いずれも31件)となりました。 国民栄誉賞を受賞した羽生結弦さんがダントツ、現役復帰を表明した高橋大輔さんが2位となりました。


応援したいフィギュア選手2018


結弦くんのダントツ1位は順当でしょう。しかし、浅田さんが引退したことを知らない人が、一般人には3%もいるのでしょうか(汗) まあフィギュアに興味がなければ、そんなものなのかもしれません。それより、問題は下記の調査結果です。今のフィギュア人気の将来は必ずしも安泰ではないのかもしれません。


今後応援したいもの2018(大和)

「スポーツや芸能で今後応援したいもの」10位の中に、フィギュアが入っていないのです。五輪で視聴率46%を稼いだ、国民栄誉賞をとった、凱旋パレードに11万人集めた「羽生結弦」がいてもこれです。ここから見えてくるのは、羽生人気のわりに、フィギュア人気そのものはそれほどではない・・・という現実。「応援したいフィギュア選手」の上位5人の票を合わせても500人強。応援したいフィギュア選手がいたところで、その「6割の人は羽生結弦である」ことを意味するわけです。そこで思い出されるのが、為末さんのこの言葉。

よく言われるのはスター選手が出れば競技の人気になるだろうということだが、これは経験則では成り立たないと感じている。競技自体のファンではなく選手のファンであれば、選手が引退したときに去っていってしまうからだ。

おそらく、スケ連が恐れているのはこれです。今、フィギュアスケート人気を支えている結弦くんの引退後も競技人気が低迷しないように、スケ連は、選手個人のファンでなく、競技自体のファンを増やしたいのでしょう。スケート誌への意味不明な「平等主義」の押し付けは、これが理由のひとつかもしれません。でも、芸能人と同じで、ごり押ししても人気はでないのです。

スポーツなので、強くなった選手は「そこそこの人気」ならでます。でも「国民的スター」になるには、もって生まれた天性のスター性が必要になります。荒川さんは「スターは作れる」と言ってたそうですが、スターもどきは作れても、本物のスターは作れないんです。フィギュアは競技の性格上、特定の選手の人気頼りになるのは致し方なく、競技の魅力だけでファンを増やすのはなかなか難しい。それは、スターがいなくなった欧米のフィギュア人気の低迷をみればわかります。そして「そこそこの人気」では、地上波ゴールデンタイムに放送できるほどのスポンサーはつかない。他の競技と同様に、BS放送やCS放送や、地上波でも夜中の放送になってしまうと思います。

「義務感」で人は選手や競技を見るわけではないので、魅力がなければ、人は去っていくだけです。
そういう意味で、フィギュアスケートのアイコンとしてのバトンタッチが、浅田さんから結弦くんにスムーズにできたことは、フィギュアスケート界にはラッキーでした。そして、結弦くんが現役続行してくれたことは、フィギュアの競技人気の延命につながりました。さて、結弦くんが現役でいる間に、次のアイコン役を担えるスターは生まれるでしょうか?


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テーマ : フィギュアスケート - ジャンル : スポーツ

2018/08/08 11:54 | テレビ番組・コラム(2018-2019)COMMENT(4)TRACKBACK(0)  TOP

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