羽生関連本とフィギュア誌業界のジレンマ ~朝日コラムより

反響が大きかったうちのブログ記事にも関係する内容の新聞記事です。
少し古いですが、興味深い記事なのであげておきます。

朝日新聞デジタルの有料記事なので、貼るのは躊躇するところでもありますが、半年ほど前の古い記事なので、ご容赦を(笑) フィギュア誌をとりまく環境を客観的にとらえてると思います。


羽生関連本、まるで皇子級 一方フィギュア誌はジレンマ(20180420 朝日デジタル)


20180420朝日デジタル
平昌五輪直後、書店は所狭しと並ぶフィギュアスケートの書籍が並んだ。表紙はほぼ羽生結弦が飾った=東京都新宿区の紀伊国屋書店新宿本店


 平昌(ピョンチャン)冬季五輪のフィギュアスケート男子で羽生結弦(ANA)が66年ぶりに連覇を果たした。書店には羽生のフィギュアの関連本があふれた。ただ、出版社側は喜んでばかりもいられないという。なぜなのだろうか。

 紀伊国屋書店新宿本店では五輪直後、フィギュア関連本のコーナーを3カ所用意した。平昌五輪に関する書籍を約15点扱っているが、表紙や内容の大半が羽生だ。「まるで『皇子』級の扱いです」と担当者は話す。

 羽生の自叙伝「蒼い炎」(扶桑社)は17万部、「蒼い炎2」(同)は10・5万部を売り上げ、五輪に合わせ増刷した。羽生が通った「アイスリンク仙台」(仙台市)に印税が寄付されることもあり、1人で複数冊購入したり、帯が替わるごとに買ったりするファンもいるという。

 「いまや、羽生が何ページ載っているかが、購入するファンにとって重要な情報になっている」と出版各社は言う。フィギュアの関連本は年間70冊を超え、競争は年々激しさを増すが、「羽生頼り」の一面もある。

目立つ羽生に特化した編集

 十数年前、フィギュアの本と言えば、専門誌「ワールド・フィギュアスケート」(新書館)だった。その後、バンクーバー五輪メダリストの浅田真央や高橋大輔が注目され始めた頃、日本男子に光を当てた「Cutting Edge」(スキージャーナル)、コーチや振付師の話題を充実させた「フィギュアスケートDays(デイズ)」(ダイエックス出版)が刊行。競技人気の高まりもあって、2014年ソチ五輪前後からは、スポーツに限らず、さまざまなジャンルの出版社から羽生を中心にした書籍が不定期に出るようになった。

 各社工夫を凝らし、東京ニュース通信社は13年に「KISS&CRY」を創刊、毎回テーマを設定し、羽生以外の選手の特集も組み、価格も約2千円が多かった中で1千円前後を維持。宝島社はファン目線にこだわった「フィギュアスケートファンブック!」を出した。

 ここ数年は、羽生に特化した編集が目立ってきた。それまでは十数人の選手や複数の大会をまとめて紹介するのが主だったが、約100ページのほとんどを羽生の写真や語録で占めたり、羽生が出場した1大会だけで特集を組んだりするなど、これまでになかった流れだ。

 出版業界の動向に詳しい出版科学研究所の担当者は、「フィギュアは、ある選手ごと、ある大会ごとなど、『単発買い』の傾向が強くなっている。ただ、浅田真央や高橋大輔も人気はあったが、羽生ほど、ひとりに特化した書籍は多くはなかった」と言う。


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消えゆく専門誌

 売り上げのために、人気もあり、ビジュアルも映える羽生を大きく扱うことになるが、一方でページ数には制限があり、様々な選手を取り上げることができない。競技そのものの魅力を、バランス良く伝えることが難しくなっているのが現状だ。

 チケット販売のぴあは、フィギュアスケートに一定のマーケットが見込めることから、15年に「フィギュアスケートぴあ」を刊行。写真を中心に選手を紹介する。しかし、平昌五輪に向けた出版は見送った。

 選手の写真を購入するだけなら経費を抑えることができるが、大会を取材したり、インタビューをしたりすると経費がかかる。だが、時間と経費をかけても、フィギュアだからと言って売り上げに大きく貢献するわけではないという。「これだけたくさんの本があると、丁寧に作っても埋もれてしまう。スポーツ誌としてまんべんなく選手を取り上げた本が売れるかというと……」と複雑な心境だ。

 スキージャーナルは今年1月に元従業員らから破産を申し立てられた。ダイエックス出版からも14年を最後に出ていない。

 同研究所の担当者は、「速報性はインターネットの情報が勝る分、書籍や雑誌ではひとりの人物にフィーチャーする傾向が多くなっている。読者のニーズが細分化され、スポーツに限らず、マスを狙うより、『個』に焦点が当てられるようになっているのではないか」と話す。(浅野有美)



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いまや、羽生が何ページ載っているかが、購入するファンにとって重要な情報になっている
読者のニーズが細分化され、スポーツに限らず、マスを狙うより、『個』に焦点が当てられるようになっている


推しの情報は金を出しても欲しいが、それ以外のスケーターの情報は、(無料の)インターネットからのもので十分・・・というのがほとんどのスケートファンの本音だと思います。もちろん、「幅広くいろんな選手の情報がほしい」という、いわゆるコアなスケオタは一定数いるのは確かですが、そういう層は「Life」や「ワールドフィギュアスケート」や「クワドラプルアクセル」などの総合誌が吸収しているはずです。しかし、そういうコアな層の絶対数は限られてますから、3誌もあれば十分なんです。

実際、ソチ五輪前は、フィギュア誌は「ワールドフィギュアスケート」(新書館)、「Cutting Edge」(スキージャーナル)、「フィギュアスケートDays」(ダイエックス出版)くらいしかなかったんです。フィギュア誌が激増したのは、結弦くんが金メダルをとった後から。「フィギュア人気」でない、「羽生人気」でフィギュア誌バブルが始まったのです。結弦くんメインの方が売れるのは当たり前のこと。万遍なくスケーターを扱ってる総合誌でも、「数ページの羽生成分」を求めて購入するゆづファンはいるので、総合誌も「羽生結弦の経済効果」の恩恵を受けているはずです。

反対いえば、結弦くんの引退によって、ソチ五輪後参入組のフィギュア誌がすべて撤退したとしても、ソチ前に戻るだけのこと。フィギュアの総合誌を購入するようなコアなスケオタのマーケットは、本来はそんなに大きくはないんです。そう考えれば、ジレンマ感じるようなことでもない。ただ、一度甘い汁を吸った出版業界としては、フィギュア誌バブルがはじけてほしくないとは思うでしょうね。


選手の写真を購入するだけなら経費を抑えることができるが、大会を取材したり、インタビューをしたりすると経費がかかる。だが、時間と経費をかけても、フィギュアだからと言って売り上げに大きく貢献するわけではないという。

経費と手間をかけて、丁寧に作ったからといって、それが多くの消費者に受け入れられるとは限らない。「スポーツはとても残酷だと思います。一番努力した者が必ず一番の結果を出せるものではありません」とは、2014年上月スポーツ大賞を受賞したときの、結弦くんのスピーチの有名な一節ですが、それは出版業界にも当てはまることだと思います。どんなに内容がご立派であろうが、どれだけ真摯な本作りをしていようが、努力と売上は必ずしも比例しない。消費者にとって魅力がなければ、出版物はただの紙屑。結弦くんの言葉通り、残酷ですが、それが現実です。

もちろん、経費や手間をかけている出版社側の言い分はあるでしょう。でも、それは消費者には関係ないこと。「お金を払うだけの価値があるかどうか」が、消費者にとっての「ものさし」だし、最終的には「魅力ある商品」が「正義」なんです。

「100%羽生結弦」の「羽生結弦 連覇の原動力」で大儲けし、その後「羽生結弦 連覇の原動力 完全版」まで出した朝日新聞社がこういう記事を書いても、「あんたとこも、ちゃっかり乗っかってるじゃん!」と言いたくなりますが(笑)、まあ「AERA」でも蜷川さんの表紙で異例の増刷。「羽生結弦」で商売する旨味は、朝日さんも十分わかっていると思います(そのわりには、よくsage記事だすけど)。結弦くんには冷淡だった「ワールドフィギュアスケート」ですら、今度「羽生本」だすくらいですからね。

さすがに天下の朝日には、販売中止などの圧力はかけにくいでしょう。
朝日さん、これからも、どんどん「100%ゆづ果汁」のご本をだしてくださっていいんですよ?(笑)


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2018/10/08 15:15 | テレビ番組・コラム(2018-2019)COMMENT(14)TRACKBACK(0)  TOP

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