羽生結弦の調整力の凄さ & ウンザリする「お色気信仰」ふたたび

炎上商法かと疑いたくなるほどなにかと物議を醸す記事の多いAERA.dotですが、雑誌の「AERA」から抜粋したものは比較的マトモです。同じAERAでも、ネット担当と雑誌担当は違うのでしょう。AERA.dotがあまりヤラかすと、雑誌の「AERA」の売り行きにも影響するので、雑誌の方からなんとかしてくれないかと思ったりしますが、出版社はデスクの権限が大きいらしいので、難しいのかもしれません。雑誌の「AERA」が最近まだマシなのは、「AERA」の売上に大きく貢献した結弦くんに多少は恩義を感じているからかしら。

最新のAERA.dotの記事2本貼っておきます。
雑誌「AERA」からの抜粋記事なので、特に問題はありません。


羽生結弦「終わったから言うんですが…」 今季初戦の裏側告白(20181113 AERA.dot)

 フィギュアスケート男子の羽生結弦が、今季世界最高得点でGPシリーズ初戦優勝という、最高のスタートを切った。直後のインタビューでは、実はジャンプに苦戦していたことを明かした。

*  *  *
──終わってみて感想は。

 とりあえずやりきれたな、と。もちろん、ふらついているジャンプが多々あったり、スピンの出来も自分の中ではうまくいってないところもいっぱいあったり、そもそも集中しきれていなかったり。いろんな課題がありますけど、まずは全部(ジャンプを)立てたっていうのは大きなステップにはなったんじゃないかなって思います。

──勢いを抑えて丁寧に滑った印象だが。

 終わったから言うんですが、ここのリンク、なかなかエッジ系ジャンプが入らなくて、結構苦戦していたんですね。最終的に今日の朝の練習で、「スピードを出さなければ跳べるな」って思っちゃったんで、ちょっとスピードを落として。特にエッジ系ジャンプ、ループはスピードを落として慎重にいきました。

──史上初の4回転トーループ-3回転半を着氷した。

 一応成功という形にはなったと思うんですけど、自分の中では加点をしっかりもらえてこその成功。この試合で終わらせるつもりはないですし、しっかり良いジャンプができるように頑張ります。

──今季はルール改正があった。

(フリーが4分半から)4分になって、いろんなスケーターに聞いているのは、「大変になったよね」っていう話。ただ、大変だからこれを抜く、あれを抜くということをしたくないと自分は思っています。自分はルールの中で最高の演技ができるように頑張りたいと思います。

──(今季、挑戦を公言していた)4回転半ジャンプは。

 今季中にはやりたいと思っています。(9月の)オータム・クラシックの前までは結構練習はしていて。でも、オータムの結果を受けて、「今、こんなことを練習している場合じゃないな」って。今はとにかく、SPとフリーを完璧なクオリティーでやることが一番かな、と。もちろん(4回転半の)練習はしたいなって思うんですけど、やれても(12月の)全日本選手権後かなって思います。

──4回転半の練習を一時やめて、プログラムを磨いてきた。

 あきらめることにした時点で、かなりスイッチを入れていたんで。「あきらめるんだから、クリーンなプログラムを絶対しろよ」って、ある意味プレッシャーをかけて練習してきました。

──4回転半はどのくらいの完成度になったらゴーサイン?

 自分の中では、(今は)5%くらい。20 %くらいになったらいけるかなと。ただ、その5%の壁がすごくぶ厚くて、そのぶ厚い壁を破るほど(今は)時間を割くものではないと思っているので、全日本までは練習はできないと思います。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央)

※AERA 2018年11月19日号



羽生結弦が世界を驚かせた今季初戦 演技構成の裏の“狙い”(20181113 AERA.dot)

 フィギュアスケート男子の羽生結弦が、今季世界最高得点でGPシリーズ初戦優勝を飾った。五輪連覇の王者は、史上初となる大技も決め、世界を再びあっと言わせた。

*  *  *
 2位との差は、約40点。次元の違う圧倒的な実力を見せつけて、羽生結弦(23)はリンクを支配した。

 グランプリ(GP)シリーズ・フィンランド大会。自身にとってはGPシリーズ今季初戦だったが、ショートプログラム(SP)、フリーとも今季世界最高点をたたき出し、合計297.12点をマークした。

「やっぱり、勝たなきゃ自分じゃない」

 試合後、負けず嫌いの性格をそのまま言葉に乗せて、優勝をかみしめた。

 この一戦の羽生を語るには、開幕前を振り返っておく必要がある。

「『結果を取らなくては』っていうプレッシャーがすごくあったのが、今は外れていて。(今後は)自分のために滑ってもいいのかな」

 2月の平昌五輪で、連覇を達成。重圧と得点のしがらみから解放された心境を口にしたのは、新シーズンを目前にした8月のことだった。

「自分らしく」に力点を置く今季。だからこそ、プログラムの曲には、憧れのスケーターが使っていた曲を選んだ。SPは元全米王者ジョニー・ウィアーの「秋によせて」。フリーは、ロシアのエフゲニー・プルシェンコの代表プログラム「ニジンスキーに捧ぐ」のアレンジ版を演じる。いずれも小学生のころから憧れを抱いてきた伝説的な選手だ。

 ただ、9月下旬、カナダで挑んだ今季初戦オータム・クラシックで感じた悔しさが転機になった。

 合計263.65点で優勝はしたが、内容は低調なものに。「めちゃくちゃ悔しい」と漏らした通り、例えばSPの足を替えてのシットスピンは規定要素を満たせず、無得点に終わった。

「やっぱり勝たなきゃ意味がない」

 不満の残る演技が、王者のプライドを刺激した。

「五輪後、ある意味でちょっと抜けていた気持ちの部分が、また自分の中にともった」

 そこから約1カ月。羽生は攻めのプログラムを携え、フィンランドに乗り込んできた。

 カギは、ジャンプにあった。まずは11月3日にあったSPだ。ジャンプ要素は三つ。最後の一つを演技後半に跳べば、基礎点は1.1倍になる。ところが、オータム・クラシックでは全てを前半に跳んでいた。

「曲調に合わせて前半にジャンプを跳んで、その後、盛り上がるところでスピンとステップをやりたい」

 得点よりも流れを優先させる。そんな狙いからだった。

 だが、今回は最後の4回転-3回転の連続トーループを以前より約10秒後ろにずらし、「演技後半」と見なされる1分20秒過ぎにもってくるプログラムに変えた。ステップとスピンを全て後半に詰め込む構成は壊さないよう、振り付けと編曲を改めて練り直したという。

 本番。冒頭の4回転サルコーで4.30点の出来栄え点(GOE)を引き出す衝撃の滑り出し。後半に組み込んだ4回転-3回転も含め、三つのジャンプをほぼ完璧に降りると、スピンは当然のように全てが最高のレベル4と判定された。

 翌日のフリーで、世界はさらに驚くことになる。

 国際スケート連盟の公認大会で成功者のない史上初の大技「4回転トーループ-3回転半(トリプルアクセル)」を着氷したのだ。

 助走なしで3回転半を跳ぶのは、極めて難しい。ただ、着氷から3回転半へ向かう途中で、足を一度踏み替える必要があるため「連続ジャンプ」にはならない。結果、至難の業の割に基礎点は0.8倍に。それでも、羽生は「僕らしいジャンプ」と言う。

 実は、構成上2回転ジャンプを跳ぶ必要がなくなるため得点増が見込める。「自分のために」というポイントは保ちつつ、したたかに高得点を狙う戦略がにじむ構成だ。フリーも七つのジャンプ要素を全て着氷し、超高難度のプログラムを鮮やかに滑りきった。

 シニアデビュー9年目。数々の勝利を手にしてきた羽生だが、GPシリーズ初戦を制したのは意外なことに、今回が初めてだった。

「GP初戦としてはよかったと思います。(ジャンプを)全部立てたことは大きい」

 ただ、この程度で満足はしない。

 特にフリーは、勝負の4回転トーループ-3回転半で着氷が乱れ、GOEがマイナス評価。他にも二つのジャンプで回転不足の判定を受けた。

「試合っていうのはすごく自分を成長させてくれるんだなと改めて思う。課題も見つかって、心の灯に薪が入れられた状態。しっかりこれからまた練習して良い演技をします」

 GPシリーズ2戦目は11月16日から、ロシア・モスクワで。

「これ以上の演技をするっていうことは、挑戦しがいのあるところ。また楽しみたいなって思います」

 目指す場所はもっと先。得点を求めつつ、自分らしく──。頂点を極めてなお、羽生は攻める。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央)

※AERA 2018年11月19日号より抜粋



フィンランド大会は最高の盛り上がりで雰囲気の良さは文句のつけようがない大会でしたが、リンクの状態はあまりよくなかったようです。ザギトワですらあまり調子がよくなかったし、男子は転倒しなかったのは結弦くん一人だけでした。

最初の方の記事は、エッジ系のジャンプが難しいリンクとわかり、スピードを落とす判断をした結弦くんの調整力のすごさがよくわかるものですが、平昌五輪のときも、後藤さんが結弦くんの優れた調整力について言及した記事を書いていました。


ジャンプの「トレース」入念チェック 羽生結弦の調整力(20180216 朝日新聞)

 ジャンプのトレース(軌跡)チェック。16日の平昌五輪フィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)に出場する羽生結弦(ANA)は幼い頃からこれを行い、その技術を磨いてきた。

 16日午前の練習もそうだった。4回転サルコーの着氷が乱れると、すぐに跳んだ地点に戻る。腰に手を当て、踏み切ったときにエッジ(靴の刃)で氷に刻まれた軌跡を見つめた。練習中5度、SPのカギを握るその軌跡をチェックした。

 つま先をつくトーループ、フリップ、ルッツは「トー系」と呼ばれる。片足で滑りながら逆足のつま先をついて両足で踏み切る。一方で、羽生が得点を稼ぐジャンプ三つは、いずれもつま先を使わずに片足だけで跳ぶ「エッジ系」ジャンプ。トリプルアクセル(3回転半)、4回転サルコー、4回転ループだ。世界で初めて羽生が成功した4回転ループは、痛めた右足だけで踏み切る。

 日本スケート連盟名誉審判の杉田秀男さんは「エッジ系は氷の状態で踏み切り方が変わる」と話す。スピード、エッジを倒す角度、描く弧の半径、跳び上がる瞬間の方向、それらを自分の感覚通りにできなければ失敗する。同じリンクでも、場所や時間で違うので、調整力が必要だ。

 だから羽生は「スピードとの関係、タイミングを頭に入れ、書き留める」という。軌跡の深さ、形を見て、本番までに微調整する。少年時代の羽生を合宿で見ていた杉田さんは「練習でトレースをよく見ていた」と明かす。美しいジャンプは緻密(ちみつ)な計算の上に成り立っている。

 「(けがで滑れない間)陸上でイメージを固めてきた」と羽生はいう。痛めた右足首の感覚や氷の状態に左右される、培ったエッジ系ジャンプ。それが、17日のフリーもカギを握る。(後藤太輔)



この優れた調整力は、彼が多くの経験値があることはもちろんですが、同時に「考えるアスリート」だからかなと思います。いくら多くの経験を経ても、そこから考え、学び、吸収できなければ、それは血となり肉となりません。彼自身がすでにフィギュア界の至宝ですが、彼の頭の中は、おそらくフィギュア界の未来にとっても宝箱なのではないかなと想像しています。

オーサーは「あのときもし金メダルをとっていたら、果たして今の自分はあっただろうかと思うんです。なぜなのかわからないけど、オリンピック金メダリストで、その後コーチとして大成したスケーターは、私の思いつく限りではいませんから(文藝春秋 2018年11月号より)」と語っていますが、そういう「名選手、必ずしも名監督ならず」みたいなジンクスも、いつか結弦くんが覆してくれのではないでしょうか。

11月10日放送の「フィギュアスケートTV!」の中で、濱田チームのスイスでの合宿の光景が流されていました。ジリアンコーチも呼ばれて、紀平さんや中村優くんにジャンプ指導をしていました。そのときに教材として見せていたスマホの映像が、結弦くんの四回転ジャンプでした。ジリアンも、他所に呼ばれてコーチにいくときは、結弦くんのジャンプをお手本に指導しているんですね。そういえば、やはり「フィギュアスケートTV!」で放送されていたスケ連主催のシニア合宿。座学のときにお手本として流されていたのは結弦くんのトリプルアクセルでした。エテリのところもそうだし、いろんなところでお手本にされている結弦くんのジャンプ。それなのに、実戦になると、結弦くんのジャンプのGOEの付き方が渋いのはなぜなのでしょうか?


村上佳菜子さんが、某番組で、宇野選手について「色気がでてきた」と評したり、男の「色気」が演技構成点をあげる要件であるかのような発言をされていたようです。NHK杯に出場していた佐藤洸彬選手も、大会前に「(舘ひろしを手本に)男の色気を出したい」と発言されていました。某選手の復帰とともに、また「色気信仰」の波が一挙に押し寄せてきたようでウンザリします。佐藤くん、色気はいいから、とりあえず技術を向上させてくれ。話はそれからだ。技術の無さを色気で誤魔化そうとしているようにしか聞こえない。

村上さんも、最近アイスショーなどでは「お色気売り」されているようですが、私は日本人女子スケーターでお色気路線で様になるのは、安藤美姫さんくらいだと思ってます。なにより20代前半で2回転祭りでは洒落になりません。10歳も年上の鈴木さんの方がまだジャンプを維持してるくらいです。タレント活動が忙しくて練習できないのなら、ショーに出ず、タレント活動に専念されるべきです。織田さんがスケートファンに支持されてるのは、タレント活動や解説業やコーチ業がどれだけ忙しくても(おそらく村上さんより忙しいだろう)、プロスケーターとしても決して手抜きしないからです。現役時代より技術的にさらに進化しているのがわかるからですよ。

この方のツィートが的を得ていると思いました。



スイス合宿の映像を見て気づいたこと。ジュンファンくんやゴゴレフくんは、「期間限定のスマホの映像」じゃなくて、毎日、「”生”の羽生結弦」を教材にできるのだなと。これはすごいアドバンテージじゃない? 日本のフィギュア界には、海外拠点選手を冷遇し「純国産」にこだわる一派がいます。でも、それではいつか日本は取り残されてしまうと、武藤さん同様、私も思います。


GPS2018FINSP027.jpg


参加してます。よろしければ、ポチっと応援お願いします♪

フィギュアスケートランキング

関連記事

テーマ : フィギュアスケート - ジャンル : スポーツ

2018/11/13 11:25 | テレビ番組・コラム(2018-2019)COMMENT(8)TRACKBACK(0)  TOP

 | BLOG TOP |