音響デザイナー・矢野桂一が紡ぐ『フィギュアスケート音楽』の世界(前編)
サウンドデザイナーの矢野さんについての興味深い記事が掲載されました。
前後編と分かれています。まず前編から。
「SEIMEI」と「Hope & Legacy」の誕生秘話についての部分だけ抜粋します。
全文はこちら → https://victorysportsnews.com/articles/4441/original
日本のフィギュアスケート界に、矢野桂一という人物がいる。競技会、アイスショー共に、会場での全ての音に関わる仕事をしている。それだけではない。羽生結弦や宇野昌磨といったトップスケーターのプログラム音源の編集や、場合によっては一曲をゼロからまとめ上げることもある。選手たちの最も側にいて、「音」を通して演技を支える、その仕事や哲学に密着する。
7曲を組み合わせた、羽生結弦の『SEIMEI』
矢野さんが、映画『陰陽師』のサウンドトラックを用いた羽生選手のプログラム『SEIMEI』を編集したことは、スケートファンの間ではよく知られている。羽生選手には提案のデモ音源を以前から送っていたという。
本人からは、「陰陽師のメインテーマと龍笛の曲は絶対に使いたい。後はお任せ」というシンプルなリクエストが届いていた。そこで、2枚のアルバムからスケートに合いそうな曲を選んで、ひとつの形にした。羽生選手のスケーティングを“想像”しながら、特徴的な7曲を組み合わせたのである。
「彼の場合、音楽に凄くこだわりがあるんです。『取りあえずこれを基本に持って行きます』と言って、ここから先は本拠地カナダで振付師との本格的なプログラム作りに入っていきます」
その後もメールでのやり取りは続いた。「ここはあと5秒欲しい」とか、「最後は気がつかないくらいにテンポを上げて、時間内に収めたい」とか。練習が進むにつれ、「ラストに太鼓が欲しい」「ここに“間”を入れたい」など、最終的には33バージョンの『SEIMEI』が作られた。矢野さんは当時を回想して笑う。
「どんどん注文が増えるんです。でも、僕もプロとして出来ないとは言えないんですよ」
プログラムの中盤に、ファンの間で話題になった箇所があった。別々のアルバムに収められた2曲を重ね合わせて1曲に編集した部分である。振付師シェイ=リーン・ボーンによる提案だったという。同じメロディを奏でるピアノと龍笛は、ピッチもテンポもまったく違っていて、実際には簡単に重ねられるものではなかった。矢野さんは大変苦労して、あの美しいパートを作り上げている。
以前、「羽生結弦選手 SP&FS編曲予想動画 & 雑考」という記事の中で、矢野さんとSEIMEIについて触れたことがあります。 その部分を抜粋します。
「フィギュアスケート Life vol.4」の中で、サウンドデザイナーの矢野桂一さんが、こんなことを言っています。「SEIMEI」誕生秘話です。
振付師のシェイリーン・ボーンのご主人も音楽編集をする人なのですが、今回は和の曲なので、「海外の人ではなく矢野さんにお願いしたい」と、彼自身からメールが来たんです。
羽生くんは音楽にとてもこだわりが強い選手で、この時も「陰陽師Ⅱのテーマと笛の部分は絶対に使ってほしい」ということは決まっていました。でも構成も何もわからないので、最初にジャンプをいくつか跳んで、スピンがあって、ステップがあって・・・と、彼の演技を思い浮かべて想定しながら作っていきました。
しかし、それでは終わらなかった。カナダの結弦くんから、「ここに太鼓の音を重ねてほしい」「この部分と部分のつなぎに少し間がほしい」「ここでイナバウアーをするので、シンバルか何かの音を入れてください」と、次から次へと修正依頼のメールがやってくる。結局、曲が固まるまでの1ヶ月間で、矢野さんは32バージョンの「SEIMEI」を作ったそうです。
「羽生くんほど緻密な選手は珍しい。将来、音楽の編集をしたりすることはないでしょうけど、でも、やったらできるんじゃないか」という矢野さん。自分でも編集やりはじめたら煮詰まって、徹夜になっちゃったそうですから(結弦くん、ちゃんと寝ないとダメ! 城田さんにも言われてるでしょ!)、本当にとことん凝り性ですよね。引退して、ショーで自作のプログラムを滑るなんてことがあったら、曲の編集も喜々としてやりそう、確かに(笑)
矢野さんも、注文の多い結弦くん相手に大変だったと思いますが(笑)、それが世界最高点に結びついたのだから、サウンドデザイナー冥利に尽きるのではないでしょうか。
この「Hope&Legacy」も、和の曲なので、矢野さんが編集担当してる可能性が高いと思います。今度は、何通のメールのやりとりで出来上がったプログラムなのか、知りたいような気がします(笑)
やはり「Hope&Legacy」を手掛けたのは、矢野さんだったのですね。
久石譲氏のご厚意『Hope & Legacy』
羽生選手が久石譲さんの曲を持ってきた時には、周りが慌てた。久石さんといえば日本を代表する音楽家で、スタジオジブリが制作するアニメーション作品の音楽でも有名だ。
「作るのはいいけど、羽生くん側の関係者に『使用許可だけは取ってくださいね』と言ったんです。編集はそれと平行してスタートさせました」
矢野さんがそう言ったのには理由があった。以前、小塚選手本人が編集したジブリの曲の使用許可が下りず、敢えてプログラム用に再録音した経緯があったからだ。なので、羽生選手のリクエストには細心の注意が払われた。ところが、羽生選手の関係者から伝えてもらった時点では了承を得られなかった。
いちばんの問題は、別の2曲を繋げて使用することにあった。作曲した経緯や曲のコンセプトがまるで違うものを合わせるということは、作曲者の意と反することである。どちらか1曲を編集して使用するのであれば目をつぶることもなくはないが、繋げることに関しては、楽曲を大切にする観点からも簡単に許可できるものではないとのことだった。
これは音楽に携わるものとして納得のいく説明だった。それでも、何とか了解してもらう方向を探した。今度はテレビ関係者の仲立ちのもと、矢野さんとスケート関係者の数人で、久石さんの事務所にあらためて頼みに行った。
「本人はいらっしゃらなかったのですが、プログラム用に私が編集した現物をその場で事務所の方に聞いていただいたんです。それで、フィギュアスケートは営利目的ではなく、純粋にスポーツのひとつであること。その競技のプログラムとして久石さんの曲を使わせていただきたいこと。競技時間や演技にあわせて編集を加える許可をいただきたいこと。それらをあらためてお願いしたんです。羽生選手の中にはすでにイメージがあるようで、何とか許可をいただきたく久石さんのほうにお話ししてくだされば、と」
その後、久石さんからは許可をいただけることになった。ただし、これは今回限りの特例であり、久石さんのご厚意によるものだ。プログラム曲『Hope & Legacy』は、『View of Silence』という美しいピアノ曲が、エキゾチックな『Asian Dream Song』を挟む形になっている。世界にひとつしかない珠玉のプログラム曲は、羽生結弦の代表的な作品になった。
まもなく、『Hope & Legacy』に携わった関係者は、東京でのコンサートに招待された。その時、矢野さんははじめて久石さん本人に直接挨拶をしたのだった。(文:いとうやまね)
私たちは、できあがったホプレガを「素敵だな~」とみていただけですが、その陰でいろいろなご苦労があったのですね。楽曲の使用許可を得るために、久石さんの事務所にまで足を運んでくださった矢野さんには感謝、感謝です。そして、許可をくださった久石さんのご厚意に、あの伝説の演技と「世界最高得点」という結果でお返しすることができて、本当によかったと思います。
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2017/07/09 08:20 | テレビ番組・コラム(2017-2018) | COMMENT(0) | TRACKBACK(0) TOP
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