「連覇の羽生結弦 また奇跡を起こした」(毎日新聞コラム)

この毎日新聞の記者さんのコラムにとても共感したので、転載しときます。

記者の目 平昌五輪 連覇の羽生結弦 また奇跡を起こした=福田智沙(東京運動部)(20180314 毎日新聞)

 平昌冬季五輪で、フィギュアスケート男子の羽生結弦(ANA)の存在感は圧倒的だった。昨年11月に右足首を負傷し、約4カ月ぶりの実戦復帰となった五輪で、ショートプログラム(SP)、フリーとも魂のこもった演技を見せて金メダルを獲得。66年ぶりの連覇を果たした。この五輪は各種目に多くの好演技があって素晴らしかったが、フィギュアスケート担当記者として、やはり平昌は羽生の大会だったと思っている。

「やってくれる」 期待感抱かせ

 しびれた2日間だった。SPは多くの人の不安を見事に吹き飛ばし、完璧。体力が懸念された翌日のフリーもミスを最小限にとどめて執念で滑りきった。羽生は「漫画の主人公にしてはちょっとできすぎなくらいの設定がいろいろあって、人間としての人生を考えたらなんか変」と笑ったが、韓国入りから連覇を遂げるまでの7日間で心と体の状態をうまくコントロールし、奇跡を起こした。

 私はフリーで3本目の4回転ジャンプを決めた時に「勝った」と思った。執念を見たのはその後の、最後の3回転ルッツ。フリーの最後でルッツを跳ぶことにこだわってきた羽生は以前、そのルッツでよく転んでいた。だが、今回は痛めている右足でこらえて立ち、倒れなかった。「どんなことがあってもやる。絶対にやる。絶対死んでもやる。絶対に勝つ」。この五輪に懸ける思いが表れていた。

 他のスケーターの皆様には大変申し訳ないが、羽生がいる大会のほうが、何百倍も、何千倍も、何万倍も面白い。羽生は「何かをやってくれる」というわくわく感や期待感を抱かせてくれる。2015年のNHK杯。羽生がSPで4回転の本数を増やすと知った私は、SP、フリー、合計の世界歴代最高得点を更新して史上初めて合計300点を突破すると予感した。そして、それを実現してくれた。2週間後のグランプリ(GP)ファイナルも勢いそのままに、NHK杯で更新した世界歴代最高得点を再び塗り替えるだろうと思ったが、その通りになった。昨春の世界選手権はSPで首位と10・66点差の5位と大きく出遅れたが、フリーでジャンプを全部決めれば勝てると私は思った。実際に羽生は、見事なまでの完璧な演技で自らのフリーの世界歴代最高得点を更新して大逆転で優勝した。

 そして、今回の五輪。練習もままならず、実戦からも離れ、さすがに私も「連覇できるのだろうか」と悲観的でもあった。一方で、これまで幾度も奇跡を見せてくれたことから「彼ならやってくれる」という期待感もあった。

芸術の裏付けに、徹底された基礎

 右足首は痛み止めを飲むほどの重傷だったが、トーループとサルコウの2種類の4回転ジャンプを決めれば勝てると思ったし、勝つべきだと思っていた。羽生はジャンプやスピン、スケーティングなど一つ一つの技術が高く、質が良い。曲と振り付けもぴったりとはまっている。ただ滑ってジャンプを跳ぶスケーターも少なくないが、羽生は技と技の間のつなぎも複雑なステップなどを入れた濃い内容で、そこから跳ぶジャンプも演技の一部にしようとする。

 「芸術は正しい技術、徹底された基礎によって裏付けされたものであって、それが足りないと芸術にはならない。だからこそ、ジャンプ、ステップ、スピンをやる際、正しい技術を使い、芸術として見せることが一番大切」と考え、「もし羽生結弦が4回転半、もしくは5回転に挑むと決めた場合は、確実に表現の一部にします。僕のスタイルはそこ」と言う。それはフィギュアスケートの理想に近い。

 羽生は観客を味方につけられる。スケーターはリンクに入れば一人。誰も手をさしのべることができない。演技を完遂するには自らの力はもちろん、観客の後押しも必要になる。忘れられないのは12年、フランスのニースで行われた世界選手権での伝説のフリーだ。序盤は4回転トーループ、トリプルアクセル(3回転半)などを決めて順調だったものの、中盤のステップで突然、転ぶ。だが、体力が消耗するなか、間をあけずに跳んだトリプルアクセルからの連続ジャンプをはじめ、残るジャンプをすべて成功させ、終盤のステップで雄たけびをあげた。右足首をねんざしながらも気迫がこもった演技は、会場の雰囲気を一変させ、うねりを巻き起こした。順位もSP7位から3位に押し上げた。あのフリーでファンになった方は少なくないだろう。

 羽生はこれまで幾度となく会場を支配してきたが、平昌でもそうだった。そして「やってくれる」という期待に応えてくれた。今後のスケート人生は「楽しみながら、ということを考えたい」とは言いつつも、負けず嫌いな性格だから闘志は燃やしているだろう。最大の目標は4回転アクセル(4回転半)。羽生をよく知る人に言わせると、羽生はやれなくても「やります」「できます」と言うのだという。だから、ある日突然成功させてしまうかもしれない。

 史上最高のスケーターであり、さらに大きな夢に向かう羽生に「頑張れ」は言わない。十分に頑張っているのは伝わっている。



ひとつひとつの言葉に全面同意です。

芸術は正しい技術、徹底された基礎によって裏付けされたものであって、それが足りないと芸術にはならない。

日本の「表現力信仰」には、この「正しい技術」という部分が全く無視されております。日本では「表現力」「色気」「踊れる」という言葉は使っても、「芸術性」という言葉は、専門家もスケオタもほとんど使いません。そのせいか、結弦くんのこの言葉をちゃんと記事にしてくれてる日本のメディアがとても少ないのは残念なことです。

今、結弦くんのスケート哲学の継承者は、日本人ではなく、ロシアのエテリ組になっています。エテリ組は、結弦くんを本当によく研究している。そして、その門下生が女子フィギュア界を席捲しているのは、日本にとっては皮肉なことですね。そういえば、プルシェンコも今スケートアカデミーをしていますが、結弦くんの演技ビデオを教材にしてるとか言われていますね。お膝元に「生きた教科書」がいるというのに、日本は何をしているのでしょうか(笑)


あのフリーでファンになった方は少なくないだろう。

はい、私もその一人です(笑) あれで、ずっぽり羽生沼に落ちました。あれから6年。沼は深くなるばかりです。


他のスケーターの皆様には大変申し訳ないが、羽生がいる大会のほうが、何百倍も、何千倍も、何万倍も面白い。

羽生結弦がいるといないでは、大会の格も変わるし、なにより大会の空気が全く変わります。他のスケーターには悪いけれど、役者が違いすぎるのです。


そして、もう一人の主役の欠場も決まりましたね。

メドベージェワ欠場=フィギュア世界選手権(20180313 時事通信)

 ロシア・フィギュアスケート連盟は13日、女子で平昌五輪銀メダルのエフゲニア・メドベージェワが右足負傷のため、昨年まで2連覇していた世界選手権(21日開幕、イタリア・ミラノ)を欠場すると発表した。

 メドベージェワは右中足骨骨折で昨年12月のグランプリ・ファイナルとロシア選手権を欠場。今年1月の欧州選手権で復帰したが、リハビリ期間が足りず、2月の五輪では痛みが残っていた。五輪後に痛みが増し、ジャンプなど足に負担のかかる練習を4~8週間は制限するよう医師に勧められたとしている。



メドベもまだ治りきらないうちに強行出場していた。しかし、特筆すべきは、結弦くんにしろ、メドベにしろ、本来なら出場不可な怪我を抱えていても、本番では、あれだけの素晴らしい演技ができてしまうということ。それが、彼らが真の一流の証であり、プライドなのだなと感嘆しました。

結弦くんはもちろんですが、メドベも来シーズンに備えて、しっかり怪我を完治させてください。まだまだ、あなたの演技は見ていたいのです。どうかステイヘルシーで。

五輪直後の世選は上位陣の欠場が増えます。それはいつものことですが、やっぱり大会の格落ち感は否めないですね。ブログ「Luce Wald」の6番さんが、五輪金メダリストの欠場者をまとめてくれました。



個人での五輪金メダリストの12人中7人がWDということになります。
欠場者の数だけみれば4年前と同じです。
でも、4年前は、日本開催で、結弦くんの凱旋試合でもあったからすごく盛り上がったのよ。

しかも、しかもです! 結弦くん、メドベ、スイハン、テサモエ・・・4カテゴリの現ワールドチャンピオンが全員仲良くWDですよ! なんだろう・・・このドッちらけ感は・・・(汗) あああああ・・・全然盛り上がらんじゃないか! 

男子シングル以外は、優勝者がほぼ決まったようなもの。男子シングルは結弦くんのWDで、かえって優勝争いの行方がわからなくなりましたが、羽生結弦の存在感が大きすぎて、彼の欠場という喪失感はそんなことではとても埋められない。失礼ながら、スター女優が出演せず、大部屋女優だけのドラマを見ているような感じかと(他の男子スケーターのファンの皆さん、すみません)。もはや、私の注目は、宮原さんがメダルをとれるかどうかという1点だけに絞られてしまったわ・・・。

テサモエ以外の、結弦くん、メドベ、スイハンの3人(組)の欠場理由は怪我です。この3人(組)は出たかったはずです。無念でしょう。それだけ過酷な競技だということですよね。トップ選手ほど、高度な技で身体に無理を強います。結弦くんとメドベの欠場理由が同じ「右足のリハビリ」・・・メドベちゃん、そんなとこまで結弦くんをリスペクトしなくていいのよ・・・?


20180225メドベインスタ
2人とも、早く元気になってね!


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テーマ : フィギュアスケート - ジャンル : スポーツ

2018/03/14 10:00 | テレビ番組・コラム(2017-2018)COMMENT(4)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

みずほさん
こんにちは。

今回の記事とマッシ氏の「北米の記者がどうコメントするか聞きたいね」で、
あーそう言えば例の青嶋さん、どういう記事を書いたのか知りたいねと、わざわざ
現代を覗いたところ歴史的快挙はワンツー、この一点張りで二連覇の二の字もないという
徹底ぶりで笑ってしまいました。

あくまでも二人のトップが世界を引っ張るという流れでの
「もはやカリスマ性さえ帯びてしまった、羽生結弦。」とか‥‥
いろいろと書き手の引っかかりが感じられる文章でしたが、
読者の方がよほど引っかかること請け合いです。

まあ二連覇は無事成されたので今やまったく需要のない記事、というか
書き手さんではありますがご注進させて頂きました(笑)

No:8290 2018/03/14 11:52 | コナン #- URL [ 編集 ]

コナン 様

コナンさん、こんにちは。

>現代を覗いたところ

現代ビジネスってサイトで書いてるんですね。最近、雑誌の方では見ないと思ったら。青嶋氏は生活もあるから、仕事があれば書くでしょうけど、まだ青嶋氏の署名記事を依頼するメディアがあるということがびっくりです。朝日デジタルですら、最近はあまり青嶋氏を使わなくなってるみたいなのに。なんたって、スケート雑誌をひとつ潰した女ですからね(笑) その後の青嶋氏の仕事の激減ぶりを見ると、自分だけ吹っ飛んだ自爆テロだったなと思いますが。現代ビジネスなんてあまりスケオタが見ないサイトだから、どうでもいいのかしら。

>今やまったく需要のない記事、というか書き手さん

今や忘れ去られて存在という感じですが、後輩くんに張り付いて、なんとか起死回生を狙っているのでしょうか。

コメント、どうもありがとう♪

No:8293 2018/03/14 17:06 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

みずほさん、こんばんは

「羽生結弦が出るならB級であれローカルであれ瞬時に最高ランクの試合となる」のは間違いないですね♪

今回のワールドは盛り上がりにかける上、「誰が勝っても話題になりにくい大会」になってしまいましたね…男子はもちろん、他のカテゴリも五輪が激戦過ぎたせいでそちらの印象が強すぎるのと、ジュニア女子の偉業を目の当たりにして半月経たないうちですからね…本当にエテリ組の女子凄すぎです。演技のお手本はもとより「スポコン魂」も継承してるのか…メドベちゃんもきっと来期はドラマチックに復活してくれるはずです!

マッシミリアーノさんも楽しみにしてたであろう「羽生結弦ミラノに降臨」が無くなってどんな解説するのかなあ…各国の実況、解説、カメラマンのみなさま方も気落ちしてるのではないかとお察しします(^^;

No:8294 2018/03/14 18:28 | なすか #- URL [ 編集 ]

なすか 様

なすかさん、こんにちは。

>B級であれローカルであれ瞬時に最高ランクの試合となる

今年の世選より、結弦くんとハビくんが出てた昨年のオータムクラシックの方が注目度もグレードも高かったような(笑) IOCの偉いさん達も来てたらしいし。

>誰が勝っても話題になりにくい大会

女子、ダンス、ペアは優勝固定で、2位以下が誰になるかという争いだし、男子は絶対的な主役が不在だしで、主催者泣かせのワールドになってますね。マッシさんに同情します。

>「スポコン魂」も継承してるのか

フィギュア競技って、男子と女子と比べたら、絶対女子の方が「漢」ですよね。競技人口が女子は多いので、気が弱かったら生き残れない(笑) 結弦くんは例外ですね。エテリ組には男子もいるのはいるけど、エテリも男子は扱いにくいと言ってますね。男子の方が女々しいみたい。結弦くんのスピリットも技術と一緒にエテリ組の女子が受け継いでくれるなら頼もしいです。日本の男子では無理そうだし(笑)

>各国の実況、解説、カメラマンのみなさま方も気落ちしてるのではないか

NHK杯が怪我でWDになったとき、田中さんがすごく気落ちしたツィートしてました。「完全に気の抜けたコーラ状態」でヤル気がでてこなかったそう。結弦くんがいるといないでは、シャッターを押す回数が段違いらしいですよ。

コメント、どうもありがとう♪

No:8295 2018/03/15 00:08 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

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