スケーターとアイドル化の問題について思うこと

昨日、紀平さんがクリケットに移籍というニュースが飛び込んできましたね。
北京五輪シーズン、各選手動きが活発になってきました。

これは興味深い記事でした。文春オンラインですが、有料記事ではありません。



「日本の女性アスリートの報道では、『美しすぎる』など容姿や私生活の話題が多過ぎる」

 オリンピック期間中、国際オリンピック委員会(IOC)と東京2020組織委員会の合同記者会見で私がそう言ったことが、国内外のメディアで沢山取り上げられました。ちょうど同時期にドイツの女子体操代表チームが、性的魅力を過度に強調したり評価の尺度にしたりする「セクシャライゼーション」に対抗するために、レオタードではなく足首まで覆われた「ユニタード」を着て出場したことや、ビーチハンドボールの欧州選手権でのノルウェー代表のビキニ拒否による罰金問題が起こったことも、話題性が高まった理由だと思います。でもそれ以上にやはり、「美しすぎる」といった形容詞や、容姿の整ったアスリートを過度に持ち上げる報道に対し、以前から違和感を感じていた人が多かったことが、反響の大きさに表れているように思います。

 そもそも、女性アスリートを巡る報道には、“量”と“内容”の二つの問題があります。世界中を見渡しても、スポーツ報道は明らかに男性スポーツの報道量が圧倒的に多い。女性のみの大会に関するコンテンツは、世界でたった4%(ユネスコ、 2018)、日本でも9%(藤山、2018)というデータがあります。そして質の問題。特に日本では、せっかく女性アスリートが活躍して取り上げられても、男性と比べて明らかに容姿や私生活に偏った内容が多い。すべてのメディアとは言いませんが、ウェブ記事やスポーツ紙、バラエティ番組を見るとそれは明らかでしょう。

 「それって悪いことなの?」

 「メディアも営利企業なんだから、需要があれば当然でしょ?」

 「その競技を知らない人が、ルックスや親近感から興味を持つのも重要では?」

 そんな声が沢山聞こえてきます。

アスリートを芸能界のタレントと区別する必要性

 実は私もそういう感覚を全否定しているわけではまったくありません。むしろこういう声を含めて議論を活発にすることで、ジェンダー平等社会に近づいていくのだと思っています。

 そもそもこの記者会見では、IOCが策定した「ジェンダー平等のための表象ガイドライン」を発表しました。このガイドラインを、私と組織委理事で中京大の來田享子教授とで大会前に和訳し、事前にメディアの皆さんに配布しました。そこには以下のようなことが書かれています。


・スポーツ報道では、女性アスリートの『競技場外』の特徴(容姿、ユニフォームや私生活)に過剰な焦点が当てられ、競技パフォーマンスや能力よりも容姿が重視される場合が多々ある

・女性アスリートは多くの場合、まず性別や妻・母・女らしさなどのジェンダーの役割が多分にフォーカスされ、その後でアスリートとして定義されるが、男性アスリートはそうではない。どのアスリートもスキルや実績を最重要視して報道されるべきである

・避けるべき用語:『セクシー』『女の子っぽい』『男らしい』『イケメン』『美少女』『美しすぎる』『美女アスリート』『ママアスリート』。また、女性アスリートを「ちゃん」付けで呼んだり、愛称で呼んだりする場合に、アスリートの価値を低めたりすることがないよう、又、ジェンダー平等の確保に注意すること

・不必要に容姿に注目しない。容姿(メイク、髪、ネイル)、ユニフォームや身体の一部(股間のショット、胸の谷間、お尻)などアスリートのパフォーマンスに特に関係がないものに画像の焦点をあてないようにする。性的魅力ではなく、スポーツの魅力を描くようにする


 これを読んで、やれやれ、厄介な世の中になったもんだ、とため息をついた人もいるでしょう。あるいは、そうは言っても人気商売なんだから、とか。

 ただし、このガイドラインには、沢山の注釈が必要です。

 まず、オリンピック、パラリンピックはほぼ公正なジェンダーバランスで報道がされる唯一の機会であること。問題は、年間を通してそれができるかどうかです。

 それから、これは「ガイドライン」であり、強制するものではないということ。もちろん、人気や視聴率、購買率は大事であり、容姿端麗なアスリートにフォーカスがいくのはよくあることで、それによるファンも増えて競技の人気が高まるのは良いことでしょう。

 選手だって、外見を注目されて嬉しくない人は少ないと思いますし、バラエティ番組に出ることが好きな選手もいる。そうやってファンを増やしたい、それが競技の人気やスポンサー獲得にも繋がると思うのは当然です。特に「マイナー競技」にとっては死活問題。

 でも、例えばカーリングやビーチバレーでビジュアル重視の取り上げられ方をされてきた元アスリートの女性たちと話しても、現役時代はアイドルのように取り上げられることに違和感、不快感があっても我慢していたり、めちゃくちゃ頑張って日々練習してきているんだからパフォーマンスもちゃんと見てよ、と思っていたと言っている人もいました。アイドル的人気で話題になったとしても、長期的視野でその競技の魅力を伝えていく必要がある。この点をもっと訴えていく必要があるのが、競技団体であり、選手だと思います。

 大切なことは、「これはスポーツですから、ビジュアルだけを過剰に報道するのではなく、競技性をきちんと伝える努力もしてくださいね」と誰かが言うこと。バランスの問題で、アスリートを芸能界のタレントと区別することの必要性を私たちは唱えているのです。



この問題については、2017年11月号のSPURで、鈴木明子さんと鈴木砂鉄さん(ライター)の対談でも触れられてました。

SPUR2017Nov(2).jpg


アイドル扱い、芸能人扱いされて嫌がるアスリートはいるでしょう。アイドル扱いは一般には女子に顕著だけど、男性アスリートでも多少はある傾向です。そして、こと男子選手に関してその傾向が一番強いスポーツは、今は、間違いなくフィギュアスケートだと思います。

どのインタか対談か忘れましたが、鈴木明子さんが、今度は男子選手に生まれ変わりたいと言ってました。その理由は「キャーキャー言われてみたい」から(笑) スケオタは一応女子も応援はしてくれます。でも、フィギュアに関しては、アイドル扱いしてもらえるのは圧倒的に男子選手です。

男子選手がスタジオ撮影で、写真集やカレンダーをだす。ジュニアの頃からインスタライブする。雑誌社がオンライン対談を有料で販売する。現役選手がyoutuberになったり、SNSやyoutubeで私生活を頻繁に配信する。間違いなく、芸能界との垣根が一番低いスポーツです。実際、引退後、OBOGのメディア露出は、他のアマチュアスポーツのOBOGに比べて、ダントツに多い。

アイドル扱いされることをむしろ楽しんでいる選手が多いように感じるのは私だけでしょうか? 誰とは言いませんが「左側(右側だったか?)から撮ってね」とカメラマンに撮影角度まで注文つける女子選手がいると、某カメラマンさんが講演会でバラしてました。女優やアイドルも真っ青です(笑) 

「アスリートを芸能界のタレントと区別することの必要性」…この区別が一番難しい競技であることは確かです。なにせ、スケオタの多くが選手(特に男子)をアイドル扱いしてますから(笑)

ただ、「競技の人気やスポンサー獲得にも繋がる」ということになると、一般層の興味を最初に惹くのはまず容姿ありきであるのは仕方ないと思います。もちろん、ある程度の実績があることが前提です。実績がまるっきりダメでは話にはなりません。どんな美形でも、予選落ちレベルではメディアもとりあげられない。

スケオタも含めた狭い範囲でのフィギュア界隈なら、容姿に難ありでも、スケオタ(特に全員応援タイプ)はアイドル視してくれます。だから、スケオタ相手に、複数の選手のカレンダーや写真集がでている。しかし、容姿が難ありでは一般層は食いつきません。ファン層を広げるまでは至らないのです。

この好ましくないという「美しい」という言葉は、実はフィギュア選手ではあまり使われていない。唯一使われているのが、なぜか男子の結弦くんだけという(笑) 結弦くんの前に、フィギュア人気をけん引していた真央さんにしても「妖精」などと言われた可憐な容姿がなければ、国民的アイドルにはなれなかったのではないでしょうか。たとえトリプルアクセルがあっても。

他競技でも、その競技のファンの中では、実績を残せば人気がでるでしょう。ただ一般人気にはつながらないだけ。フィギュアも結局はそう。スケオタ界隈の狭い範囲のアイドルにはなれても、一般人気にはつながらない。でも、それだと競技人気はいずれ縮小していく。だから、少しでも一般層の認知を広めようと、マイナー競技の選手は、お呼びがあればテレビのバラエティー番組にも出たりする。

問題はあるにしても、メディアは、第一印象の見た目に反応しやすい一般層の需要をよくわかっているのだと思います。そして、メディア側からすれば、いくら良い記事を書いても、興味をもってもらえないと、紙面も売れないし、アクセスも増えないという現実もある。

フィギュアの地上波放送において、人気選手の煽りやら過去映像に尺をとって、下位選手の演技を省略し、上位選手から放送するフィギュアの放送の仕方に、スケオタからの批判があるけど、私はこれもある程度は仕方ないと思ってる。私がテレビ局の人間でも「下位選手を放送しても視聴率とれないんです。第1グループの第1滑走者からみたかったら、BSかJスポーツかライストを見てください」と言いたいだろう。

ただ、「結婚の予定は?」などというメディアの下世話な質問は、さすがに今の時代ではセクハラです(平昌五輪金メダルの記者クラブ会見のとき、結弦くんに同じような質問したアホがいたわ。フジテレビの記者だったな)。真央さんが、少し前に、テレビの公開見合いみたいな企画の番組に出ていました。最近真央さんがIMGをやめたのは、IMGがあまりにも変な仕事をとってくるからかな?と思ったり(笑)


鈴木さんと武田さんが、結弦くんの人気のすごさについても語っておられました。

SPUR2017Nov(1).jpg


プリンスのような顔とスタイル、そして燃えたつような闘志の持ち主。
頭脳明晰で、災害復興活動に積極的で多額の寄付を続ける篤志家。
66年ぶりの五輪二連覇、国民栄誉賞、様々な栄光をつかみながら、なおも自分の限界に挑み続けるアスリート魂。

そんな、少女漫画に出てくる理想の男性のような超絶美青年が、様々な苦難に見舞われながら、その困難に立ち向かい乗り越えていく一大リアルドラマを、もう10年近く繰り広げているわけで。しかも、今や悪の組織に、正攻法で立ち向かう正義のヒーローですよ(笑) 中国では「美しくて」「強くて」「可哀相な境遇」のキャラクターが人気がでる条件らしいですが、それって世界共通じゃないかな。

美形で、強くて、目をひくドラマ性のあるアスリートは人気がでます。最近では池江さんとかもそうかなと思います(彼女のバックにいる電〇のプロモーションがうまいにしても)。

これからの日本男子選手が気の毒だと思うのは、スケオタはともかく、一般層の基準がいろんな意味で「羽生結弦」になってしまっていることかな。このあたりが後輩達の辛いところですね。そう考えると、日本のフィギュアバブル(実質羽生人気)は、結弦くんの引退後は、身の丈の合った規模に落ち着いていくんだろうなと思います。


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タグ : 2021-2022_season

2021/09/09 12:27 | 雑談COMMENT(6)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

美貌と闘志

みずほさん、私もそう思います。
初めて羽生君をテレビ画面越しに見たとき、華奢で美しい少年の鋭い眼差しに射ぬかれました。それに続くダイナミックで美しいジャンプ。一気に沼落ちです。

人が美しさに惹かれるのは当たり前。
私は元々バレエ、舞台好きですので、スタイル、顔、技量が揃ってる人に人気が集中して当然と思っています。
生き方は顔にでますので、単に美しいだけでは無理です。

揃っていなければ、それなりですよね。主役にはなれません。

フィギュアスケートは羽生君が愛している競技ですが、うーん、方向転換できるか否かにかかってますよね。トップが石頭で、井戸の中にこもってるような人達。。

No:16000 2021/09/09 13:14 | monaka #JalddpaA URL [ 編集 ]

みずほさん毎日ありがとうございます!

ムック本などが出始める前に
初めて雑誌で羽生選手を“特集”してくれたのがナンバーでしたね。
特集自体が希少過ぎて感動したのを今でも覚えています。
表紙が女子選手でなく羽生選手の写真でありながら
「美しき日本のフィギュア」と大きく表題がされており、そうそう分かっているねぇと頷いておりました。

中国杯でのトラブルの時の出血の流れ方は背徳感的美しさにゾクッとしたファンも多かったと思いますが、顎という目立ちにくい箇所で本当に良かったと、神様からも美しさを護られている人なのだなと思いました。




No:16001 2021/09/09 19:44 | tiamisu #- URL [ 編集 ]

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No:16007 2021/09/10 17:32 | # [ 編集 ]

monaka 様

monakaさん、こんにちは。

>スタイル、顔、技量が揃ってる人に人気が集中して当然

アートスポーツにおいては容姿も才能のひとつだと思います。同じことをしても全然見栄えが違う。

私もどちらかというと、スポーツみるよりショー見る方が好きな人なのですが、フィギュアが健全なスポーツではなくシナリオありきのプロレスだというなら、せめて見て目くらい美しくあってほしいです(笑)

>方向転換できるか否かにかかってますよね

今日ジャッジの告白を記事でとりあげましたが、ほぼ絶望的だと思いました。

コメント、どうもありがとう♪

No:16008 2021/09/11 00:57 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

tiamisu 様

tiamisuさん、こんにちは。

>ナンバーでしたね。

鈴木さんの対談はspurですが、ナンバーの「美しき日本のフィギュア」は私も買いました。確かダムパリの衣装の写真だったかと。

>顎という目立ちにくい箇所で本当に良かった

顎とはいえ、あの時は「きゃーーー!!! 結弦くんの顔に傷が残るーーーー!!」とパニくりました。まさか男子アスリートの顔に傷が残ることをこんなに心配する日がこようとは(笑) しばらく絆創膏を貼ってましたね。痛々しくて本当に心配しました。神様が彼の美貌を守ってくれてよかったです。

コメント、どうもありがとう♪

No:16009 2021/09/11 01:07 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

k〇〇〇〇〇〇 様

k〇〇〇〇〇〇さん、こんにちは。

>その時間帯にお客さんも全然来なかった

その時間帯いコールセンターの電話が鳴らなかったとか、株式市場が止まったとか、様々な伝説がありますね(笑) それくらい固唾をのんで日本中(世界中)が注目していた。

https://twitter.com/phooyuz/status/1436350158799708162

このツイみたらわかりますが、安倍首相が乾杯のあとに、すごい速さで結弦くんのとこに一番にやってきてます。人気とりじゃなくて、本当に心から国民栄誉賞あげたかったのだとわかりますね。色々ある政治家なのはわかってるけど、安倍さんを憎めないのはこういうの知ってるから(笑)

>中国がアイドルやそのファンに対して厳しい措置を取る

私もちらっとテレビでみて、中国でBLゲームも取り締まられることが流れていて「ええーーー」と。中国の腐女子が可哀相。結弦くんへの影響は、アイドルと考えるか、アスリートとして考えるか。中国共産党は結弦くんを気に入ってるし、北京五輪にでてほしいだろうから大丈夫だと思いたいです。

>羽生くんの発言に皆大喜びしている

プリンスやとしさんのファンが大喜びしたのと同じです。BTSというだけで色眼鏡でみる羽生ファンはいるけど、狭量すぎるかなと思ってます。

だって、BTSファンも結弦くんだから大喜びしてるんですよ。ザアイスで他の男子スケーター達がBTSでコラボダンスやっても、BTSファン誰も喜んでないでしょ?(というか、全く話題にもなっていない)

>ありがとうと言いましたか?

それは鍵コメで結弦くんにも私にもおっしゃいました。感謝の気持ちで離れたいと思うと。だからもううちのブログにもおいでにならないだろう、もうファンを離脱したのだろうと思っていたら、しばらくしてまたBTSの件で攻撃的なコメントを寄せてこられて…。私もわけがわからなくて、申し訳ないけどブロさせていただきました。

>一般層の基準がいろんな意味で羽生結弦

結弦くんの罪は一般層のハードルをとてつもなく上げてしまったことでしょうか(笑)

コメント、どうもありがとう♪

No:16016 2021/09/12 13:40 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

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