ギタリストと音響デザイナーが語る舞台裏と貴重映像「FaOI2017羽生結弦との奇跡の共演」

情報洪水でなかなか記事で紹介できませんでした。2週間ほど前の話題になります。やっとUPします。

結弦くんは、FaOIの最終会場の千秋楽に特別プログラムを披露してくれることがあります。2017年のFaOIもそうでした。パリ散で結弦くんとコラボしてくださったギタリストの今野さんが、あのときの舞台裏を詳しく語ってくださっています。また、スタッフが撮影した貴重映像(前日リハーサル、当日リハーサル、本番)も公開してくださってます。



音響デザイナーの矢野さんサイドからのお話です。
矢野さんもFaO2017に関わっておられました。あの「奇跡のコラボ」が生まれた状況をお話してくださっています。



アイスショーの醍醐味のひとつに、生演奏がある。クラシックからポップス、ジャズ、ロックと、様々なジャンルのアーティストが、氷上のスケーターたちとコラボする。普段のコンサートと違うのは、彼らにとって“ありえないところ”で歓声や悲鳴、拍手が起こることだ。そのあたりは前もって了解済みらしく、矢野さんたち音響サイドも、ジャンプやスピンに合わせて音量を調整する。

一般にクラシック界は保守的で、奏者もあまり原曲をいじりたがらない。classical music(古典)と呼ばれる所以だが、そんな中にも熱狂的なフィギュアファンの音楽家もいる。例えば、福間洸太朗氏。パリ国立高等音楽院やベルリン芸術大学で学び、20歳でアメリカ・クリーヴランド国際ピアノコンクールで優勝という国際的ピアニストだ。

「福間さん、フィギュアスケートがすごく好きで、実は僕がやっている仕事にも興味があるとおっしゃってるんです。選手に曲をいろいろ紹介したいらしいです」

クラシックの演奏家がフィギュアの曲を聞いて仰天するという話はよく聞く。逆にプログラム曲を集めたコンサートでは、正規の長さに驚くスケートファンも多い。例えば、羽生選手の3分弱の『バラード第一番』が9分間たっぷりあったりするわけだ。

「福間さんは、頭の中で演技と曲がシンクロしていて、ぴったり合わせられるんですよ」

 去年になるが、福間さんが羽生選手の「映像」に合わせてピアノを弾くという演出があった。演奏するのはショパンの『バラード第一番』で、ピアノの前には楽譜ではなくモニターが置かれていた。福間さんは、画面に映る羽生選手の動きをタクトに、プログラム用に編集されたバラード第一番を完璧に弾いて見せたのである。しかも、音源に使用しているクリスティアン・ツィメルマンのテンポにしつつ、独自のニュアンスと感情を込めながら。

実は、福間さんがリンクで『バラード第一番』を弾いたのは、この時がはじめてではない。以前ショーの途中で氷上にトラブルが発生し、整氷タイムが設けられたことがあった。その時、間をもたせるために演奏したことがあった。本人の粋な計らいだった。それを聴いていた羽生選手のリクエストで、最終日のアンコールにも『バラード第一番』が付け加えられた。結局、2回演奏したわけだ。

「羽生君、結構突拍子もないことを言ってくるんですよ。みんなプロだからやろうと思えばできるんですけど。まぁノリですよね」

「先日の新潟公演は見られましたか?また羽生くんが、『矢野さん、パリ散の音源ありますか?』って聞いてきたんです」

矢野さんは、すでに羽生選手のとんでもない思いつきに免疫が出来ている節がある。目を細めながら話してくれた。『パリの散歩道』はロックギタリスト、ゲイリー・ムーアの代表作だ。スケートファンは愛情を込めて『パリ散』と呼んでいる。ソチ五輪でも演じた人気のプログラムである。

『今回、生のギターの方がいますよね。杏里さんのバンドメンバーのギタリストの方』

なんとなく羽生選手の考えていることが分かった。それでいろいろ話をすると、やはり“ギターを生で出してほしい”ということだった。アイスショーの最終日に、パリ散で共演したいと言うのである。そればかりはミュージシャン側に相談する必要がある。事務所にも言わなければならない。何よりショーの主催者を通して話さないとまずい。

「全員がオーケーならば、ぼくも手伝ってあげると、主催者側から羽生くんに伝えてもらったんです。すると、ギタリストの今野竹雄さんも、『光栄です』と言ってきたと聞きました。ただし練習させてほしいと。急遽、前日にリハーサルをしました。羽生くんもいっしょに」

明けて当日のリハーサル。まだ、出だしを含めた詳細は決まっていなかった。

「その朝、目覚めてふと思ったんです。せっかくギタリストをフィーチャーするのだったら、演奏者もオマケみたいな扱いではなく、ちゃんと見せてあげなければと」

すぐに制作と話をした。シナリオはこうだ。羽生選手が一旦リンクから下がって、中で汗を拭いたりしてる時に、突然ギターがソロでパリ散のフレーズを弾きはじめる。お客さんから歓声。煽るようにメロディーを一回し弾く。大いに盛り上がったところで羽生登場。そのまま続けて、後半の『フーチークーチーマン』の音源に繋げていく。ギターはそのまま音源にあわせて弾く。

そのサプライズは大成功だった。“バラ1”の衣装のままというのも、なんだか新鮮だった。フーチークーチーマンはセッションでよくやる2019曲なので、ギターの今野さんもすぐに出来たのかもしれませんね。そう振ると、矢野さんは笑いながらこう返してきた。

「でも、きっと一晩中練習したんじゃないかな。前日のリハーサルと気合が全然違いましたよ」



結弦くんのリクエストでギタリスト・今野さんとのコラボ「パリの散歩道」
結弦くんのリクエストでピアニスト・福間さんとのコラボ「バラード一番」
結弦くんのリクエストでヴァイオリニスト・末延さんとのコラボ「オリジン」


20192019の富山公演の千秋楽は現地だったので、アンコールの「オリジン」に立ち会うことができました。

マスカレイドの後再登場(すごい歓声)→オリジンポーズ(さらにすごい歓声)→オリジンフィニッシュ(轟音のような歓声で会場全体が揺れた)。

会場の天井席にいたるまで、すべてを支配下においてしまう才能は、引退してアイスショーの世界にいっても遺憾なく発揮されるでしょう。彼が活躍の主たるステージを競技からショーに移した後、彼は今度はアイスショーの革命児になるだろう、そして私は彼の魔法から覚めることはこれからもないだろうとあらためて確信した演技でした。


千秋楽の演技とアンコールのパリ散は「フィギュアスケートTV!」で放送されました。

170722 FaOI in NIIGATA




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タグ : 2021-2022_season

2021/10/17 08:17 | アイスショー・イベントCOMMENT(4)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

おはようございます

みずほさん 記事をありがとうございます。

今野さんの動画見ました。なぜ、こんなに切ない感じなんだろうと思って、他の動画も見てみました。地方出身者が夢に向かって踏み出す難しさ、業界の状況などを改めて感じました。彼の故郷は浪江町なんですね。
羽生君とのパリ散を「光栄」といった彼にも幸せを願います。

そして、フィギュアスケート界の「常識」を打ち破って二連覇を勝ち取った羽生君の夢がかなうことを改めて願いました。

No:16188 2021/10/17 10:47 | monaka #JalddpaA URL [ 編集 ]

monaka 様

monakaさん、こんにちは。

私達ファンにとってはとても貴重なお話と新潟公演の動画でした。また共演できる機会があることを願っています。

>「光栄」

外部の人達は皆さん別格扱いしてくださる。村民だけです。評価低いのは。おそらく村の外の人達は嫉妬フィルターで彼を見ないからでしょう。

コメント、どうもありがとう♪

No:16190 2021/10/17 19:42 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

こんにちは。
わたしも羽生くんはショーの革命児になると思います!
コラボプロのようにアイデアやサービス精神がすごいですし、経験値が他の選手とは違います。
モモ博士さんのブログで読みましたが、ソチ五輪翌シーズンに、羽生くんがクリケットに来たころから取り組んでいた技ができたときは嬉しかったとトレーシーが話していました。
シングル選手には必要はないけど、あると便利な技だそうで、羽生くんはそういう一生ものの技術をクリケットでたくさん身につけたと思うんです。

あと、長年ファンタジーオンアイスで海外のトップスケーターやプロのアンサンブルスケーターさんと共演したことは羽生くんの大きな財産です。
少し前にこちらのブログで若手のプロ意識のなさを指摘していましたが、羽生くんのプロ意識はファンタジーで培われたんだと思います。

エキシビションの練習などで、羽生くんは海外のカップル競技の選手とも親しそうに話してますし、人気は世界規模だし、今までの日本人選手とは違う活躍を羽生くんは引退後見せてくれると思うと、すごく楽しみです。

No:16196 2021/10/20 10:42 | サリ #irjSYgu2 URL [ 編集 ]

サリ 様

サリさん、こんにちは。

>一生ものの技術をクリケットでたくさん身につけた

技術・人脈・英語力…結弦くんがクリケットで手に入れた財産は途方もないものです。海外留学した選手全員がそういう財産を手に入れられるわけではありません。それは他の日本人選手をみてもわかる。彼に貪欲にすべてを吸収できる才能があったのです。

>羽生くんのプロ意識はファンタジーで培われたんだと思います。

ファンタジーで培われたものは、アーチストとのコラボによって表現の幅がものすごく広がったことかなと個人的には思っています。

結弦くんが「普通の金銭感覚をもったサラリーマン家庭」で育ったことも大きい。ジュニアの頃から遠征のときの為替レートを心配している子でした。お金のありがたさをわかっているから無駄使いをしない。高額なチケット代を払っている観客にいい加減な演技を披露できない…そういう意識に繋がっているのかなと。フィギュアやってる子はあのチケット代の重みがわかってない子が多いなと思います。ファンタジーに何度か出ていても、転倒だらけの演技のあとに「良い練習になった」と発言するプロ意識のないスケーターもいますからね…。

コメント、どうもありがとう♪

No:16200 2021/10/21 11:34 | みずほ #o/PXu/q6 URL [ 編集 ]

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